
「女子選手のSG制覇はいまだ誰も成し得ていない。それを目標にできるわけだからな。こいつは夢がある!そう思わないか?」
「まぁ、しかし夢にはかなう夢と、かなわない夢がある。それは自分で判断するしかねぇな。できねぇと思ったら。無理することはねえんだぜ?」
これはボートレース漫画の金字塔「モンキーターン」30巻にて洞口武雄が青島優子に対して発した有名な発言だ。ボートレースが始まり70年。これまで幾度と無く歴史を塗り替えていく中で未だ成し遂げられていない偉業がこそ女子レーサーによるSG制覇であった。
そんな漫画の世界でも、現実でも厳しいと思われた夢物語の偉業が2022年3月についに達成された。

滋賀支部所属の遠藤エミ選手。これまで女子レースのタイトルレースを次々に制覇した昨年の賞金女王が長く続いた歴史に終止符を遂に打つのであった。
これまでの長い歴史を塗り替えることが出来たその裏側を含めて6日間の戦いを振り返っていく。
有力候補の脱落と本人の充実度
今節はまさに波乱が波乱を呼ぶといった6日間であった。
全ての始まりは峰 竜太の出場停止でありこれによって大本命不在と言われ始まった今節だったが、初日に茅原悠紀選手が欠場でそのまま帰郷。予選中には西山貴浩、桐生順平、田村隆信、濱野谷憲吾といったSG、G1ウィナー達がまさかのフライング失格で次々と賞典除外へ。
更にこのような状況にありながら原田幸哉、白井英治、辻栄蔵、深川真二、羽野直也、藤山翔大・・・予選突破を期待された選手たちも予選で姿を消していく誰もが予想をしなかった4日間はファンも驚くことばかりだった。
そんな中で遠藤 エミ選手は初日の1コースイン逃げ勝利に始まり3勝、2着1回、3着2回のオール舟券内の成績で勝率8.33で予選をフィニッシュ。大阪支部の秦 英悟、群馬支部の毒島 誠の両選手との予選トップ通過の争いを制し史上初の女子選手によるSG予選トップという偉業をまずは成し遂げるのであった。
毎日のようにピットレポートで称え続けた節間の相棒68号機はペラ調整を中心に調整に性能をアップ。昨年ごろより自分のペラの形を確立させたことでどの場でも崩れることなく戦える自信をつけることに成功した努力は今節でも大きく味方をしていったのは言うまでもないだろう。
最大の鬼門を全スロ戦での突破
予選トップ通過を決めて迎えた5日目の準優勝戦は今節最大の危機であり山場だった。

予選18位で通過となった6号艇、広島支部の前本 泰和選手は外枠であれば積極的に前付けを狙う常連レーサー。
大外の艇の前付けというのは言わば失うものがないゆえに勝てなくとも無謀な動きに出ることは多い。しかし無謀な動きに出るような予選通過順位ということはそれだけモーターに課題が残っているという裏付けでありインが深くなれば当然だがスタートで立ち遅れて外の艇に捲られることもある一か八かの戦い方である。
そんな前本選手はレース前にこのようにコメントをしている。
「上とはかなりの差がある。遠藤選手は特に出ている。自分は全部が納得できていない。いろいろ調整はやったんだけど。進入は少しでも内がいい。スタートはコンディション的にちょっと難しい」
このことから遠藤選手が抵抗。これによって外の艇が捲る・・・というシナリオを誰もが予想したことは間違いないだろう。
女子レーサーは進入が乱れると弱いというのが相場なのだが、ビックレースになればなるほどその風当たりが強いことは今に始まったことではない。
全期待を背負った優勝戦
女子レーサー初の偉業へ向けていよいよ迎えた優勝戦。多くのボートレースファンは勿論のこと先輩、後輩女子レーサー達がその瞬間へ遠藤選手への注目が集まる。

節間を共に戦った岡山支部の守屋美穂、香川支部の平高奈菜の2人は水面近くで祈りながら見つめる。同時開催で行われていたボートレース児島の女子戦では魚谷香織選手を筆頭に出場するレーサーを応援するようにメッセージを送る。
幸い残った他の5人のレーサーを見渡しても強気に前付けをする選手も不在であり、枠なり3対3で自分との戦いが可能だった優勝戦だったのは当日の朝から食事もまともに通らずロクに眠ることも出来なかったとレース後に語るほどのプレッシャーがかかる遠藤選手には大きなプラス材料となる。
6日間を振り返っていくと流れは常に遠藤選手に味方をするシーンが多く全てをプラスに変えていく。常に勝負強いレースを売りにしてきた遠藤選手の真骨頂が今こそ試される瞬間は刻一刻と迫っていく。

雨の降りしきる大村の水面。いよいよピット離れの瞬間を迎える。
優勝戦だけあり全艇0.0台のスタートで飛び出し迎えた1マーク。ツケマイに出た3号艇の毒島 誠選手は2号艇の秦 英悟選手に引っかかる形で両者が脱落。そこへ内から差しで逆転を狙った4号艇の上條暢嵩、5号艇の中島孝平選手の両者が追撃体勢も2マークで完全に振り切ると後は独走状態。
2着以降の隊列も早々に決着がつくと後は3周をしっかり周り切るだけの状況をしっかりと70年間変わる事のなかった歴史の扉が遂に開く時が訪れた瞬間であった。
レースを振り返り「スタートもターンも失敗したけどエンジンに助けられた」と語る姿こそ常に高みと完璧を追い求め自分自身を律して勝負強いレースを幾度となく見せてきた遠藤選手の勝負強さの原点なのかもしれない。

しかし、そんな遠藤選手もファンへの一言を求められると思わず涙を流してしまう。
これまでのレースとは比べ物にならないプレッシャーに打ち勝ち全てのプレッシャーを跳ね除けた選手の涙に多くのファンの感動をさらう6日間はこうして幕を閉じるのであった。
次なる目標への戦い

SGボートレースグランプリの優勝で遠藤選手の賞金は2022年3月21日現在で4833万円に到達。言うまでもないが総合1位に女子選手がランクインした瞬間であった。
女子選手は優先的に女子戦への斡旋が増えていくことからA1レーサーでも記念レースへ斡旋されることは男子レーサーと比べても少ない。それゆえに優勝賞金200万円の争奪戦になってしまう女子戦では賞金を増やしていくことは困難になってしまう。
ただし今回のSG制覇は今後の遠藤選手の斡旋に大きな変化を与えていくことが予想される。現にこの優勝の副賞としてSGボートレースオールスターへの追加斡旋が決定しており今後もSG、G1レースの斡旋で男子トップレーサーを相手に戦うシーンがこれまで以上に増えていく。
そうなれば次なる目標は女子レーサーとして初のグランプリ(賞金王)進出。当然ただ出場するだけでは意味はなく出るからには優勝の2文字を狙っていくことは間違いないだろう。
誰も成し遂げること無かった女子SG制覇は漫画の世界でも実現をすることが出来ないほどの偉業。現実が漫画を超えた先に待っている未来はきっと想像することも出来なかったような景色なのかもしれない。
「女子レーサーがSG制覇ことなんて当たり前」・・・いつの日がそんな時代が訪れる日が来ることも未来に向けて私は期待をしてみたい。
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